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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

そのため使者を遣わして、今晩参って話し合うよう、その市之丞まで申し入れましたところ、その者は来ずに代りとして、あなたがお見えになられたような次第、もうこうなっては平和の間に折り合うことは不可能でござる。是が非でも戦わねばならぬ。ところで味方はおおかた召使い、太刀取る術さえ知らぬ手合い、戦えばわれらの敗けでござる。お願いと申すはここのこと、何んと助太刀してくださるまいか。侠気あるご仁と見受けましたれば、折り入ってお願い致すのでござる」

「ははあ、なるほど、よくわかってござる」

銀之丞は腕をくんだ。「さてこれはどうしたものだ。自分は能役者で剣客ではない。それに当分剣の方は、封じることにきめている。それに見たところこの老人、善人とはいうがアテにはならぬ。その上相手の市之丞というは、小太刀の名人だということである。うかうか助太刀して切られでもしたら、莫迦を見る上に外聞も悪い。これは一層断わった方がいいな。……だが両刀を手挾む身分だ、見込んで頼むといわれては、どうも没義道に突っ放すことは出来ぬ。どうもこれは困ったぞ。……いや待てよ、この老人には、美しい娘があった筈だ。