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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

そこで銀之丞も言葉を改め、

「そこもと、それが希望なら……」

「希望でござる、是非願いたい」

「よろしゅうござる。申しますまい」

二人はまたも沈黙した。

「さて、改めてお願いがござる」一句一句噛みしめるように、九郎右衛門はいい出した。「何んとお聞き済みくださるまいか」

「お話の筋によりましては。……」

「いかさまこれはごもっとも」

九郎右衛門はまた眼をとじ、じっと思案に耽ったが、

「私、昔は悪人でござった。しかし今は善人でござる。……とこう申したばかりでは、あるいはご信用くださるまいが、今後ご交際くださらば、自然お解りにもなりましょう。ところが先刻不用意の間にうっかりお耳に入れました通り、私には敵がござる」

「どうやらそんなご様子でござるな」

「それがなかなか強敵でござる」

「それに人数も多いようでござるな」

「しかし恐ろしいはただ一人、金子市之丞と申しましてな、非常な小太刀の名人でござる」

「ふうむ、なるほど、さようでござるかな」

「それが徒党を引率して、最近襲撃して参る筈、ナニ私が壮健なら、ビクともすることではござらぬが、何を申すにも不具の躰、実は閉口しておるのでござる。