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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
と記した文字も、躍り出しそうに元気がよい。
しばらく見ていた平八は、木戸を潜って内へはいった。
ギッシリ見物が詰まっていた。そうして幕が開いていた。上野山下池ノ端、美しい夜景が展開されていた。と、一人の人物が、鼓を打ちながら現われた。縦縞の結城紬、商人じみた風采であった。
「ははあこいつが鼓賊だな」
平八は口の中で呟いた。と、もう一人の人物が、それを追いながら走り出た。古ぼけた紋服、古ぼけた袴、年の頃は五十四、五、皺の寄った痩せた顔、郡上平八そっくりであった。
「ううん、さてはこいつだな、松五郎めがいいにくそうに、あくどいつくりだといったのは! いかにもこれはあくど過ぎる。だが、それにしても不思議だな。どうして俺と鼓賊とが、あの晩湯島と池ノ端とで、追いつ追われつしたことを、この役者達は知っているのだろう? これではまるでこの俺を、からかっているとしか思われない」
奥歯を噛みしめ、こぶしを握り、平八はブルブル身ぶるいをした。
と、その時、鼓の音が、一きわ高く打ち込まれた。
さすがの玻璃窓行きづまる
聞き覚えある鼓であった。忘れられようとしても忘れない、例の鼓の音であった。