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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
これは何物かに驚いて、かごを雪の上へほうり出したまま、そっちへあわてて逃げたがためで、長方形のかご底の跡が、雪へはっきりついている」
こういいながら雪の積もった、堤の一所を指差した。かご底の跡がついていた。
「こっちへ」といいながら平八は、堤を横切って向こう側へ行ったが、「何んと一閑老土手の腹に、乱暴な足跡がついていましょうがな?」
「いかにも足跡がついています。おおそうしてあの跡は?」一閑斎は指差した。その指先の向かった所に、雪に人形が印せられていた。
「恐い物見たさで駕籠舁きども、あそこへピッタリ体を寝かせ、鎌首ばかりを堤から出して、兇行を窺っていたのでござるよ。で、人形がついたのでござる」
「何がいったい出たのでござるな?」「白刃をさげた逞しい武辺者」「そうしてどこから出たのでござろう?」「あの桜の古木の蔭から」
こういいながら平八は、再び堤を横切って、元いた方へ引き返したが、巨大な一本の桜の古木が、雪を鎧って立っている根もとへ、一閑斎を案内した。「ご覧なされ桜の根もとに、別の足跡がございましょうがな」「さよう、たしかにありますな」「すなわち武辺者が先廻りをして、待ち伏せしていた証拠でござる」