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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
「何、待ち伏せ? 先廻りとな? さような事まで分りますかな?」「何んでもない事、すぐに分ります」平八は提灯を差し出したが、「両国の方からこの根もとまで、堤の端を歩くようにして、人の足跡が大股に、一筋ついておりましょうがな。これは大急ぎで走って来たからでござる。堤の真ん中を歩かずに、端ばかり選んで歩いたというのは、心に蟠があったからで、他人に見られるのを恐れる人は、定ってこういう態度を執ります。さて、しかるにその足跡たるや、一刻もやまない粉雪のために、薄く蔽われておりますが、これがきわめて大切な点で、ほかの無数の足跡と比べて蔽われ方が著しゅうござる。つまりそれはその足跡が、どの足跡よりも古いという証拠だ。すなわち足跡の主人公は、駕籠より先に堤を通り、駕籠の来るのを木の蔭で、待っていたことになりましょうがな」「いかにもこれはごもっとも。そしてそれからどうしましたな?」一閑斎は熱心に訊いた。
「まず提灯を切り落としました」「それは私にもうなずかれる。提灯の消えたのは私も見た」
横歩きの不思議な足跡?
「それから駕籠へ近寄りました。その証拠には同じ足跡が、これこのように桜の木蔭から、駕籠の捨ててあった所まで、続いているではござらぬかな」