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わしゅうちめいだん

和州地名談

柳田 国男

「奈良叢記」駸々堂書店、1942(昭和17)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,320 字 · 14 页

青空文庫

六

いずれの側から見ても我々には興味が深い。個々の観察者は必要上、いつもやや大まかな類推法を使おうとする。もしもこの場合に何かあってもよいような原因が仮定し得られたなら、あるいはそれから逆戻りに、証拠はもっとあったのが消えたのだろうという風に想像したかも知れない。幸いなことにはここではほとんと見当が付かぬので、今後の協同の研究に残されているのである。

もちろん古い事跡の埋没しきっているものはまだ多い。それが微々たる地名の暗示によって、次第に顕われて来ることも期待してよい。あたうべくんば幾つかの仮定を立てて、当否を試みることも許されるであろう。ただその推論はどこまでも客観的で、誰の目にも安全なものでなければならぬ。日頃かくあれかしと念ずる方へ、ないしは反対する者の少なそうな方へ導いて、楽をしようとする態度は面白くない。むやみに危惧するのも不道徳かは知らぬが、一般に今日の論文は簡単過ぎる感じがある。もう少し複雑な原因の組合せを、予想する習慣を付けないと、せっかくこの方面の開拓を始めても、収穫を挙げる日はかえって遅くなるであろう。

六

このごろようよう自分達も用心するようになったが、地名の音声とこれを表わす文字とは、たいていの場合には時を同じくして生まれてはいない、というよりもその間が相応に隔たっている。