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わしゅうちめいだん
和州地名談
柳田 国男
「奈良叢記」駸々堂書店、1942(昭和17)年1月10日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,320 字 · 14 页
たとえば南葛城郡の一区域をサラギと呼び始めた人と、そのサラギに蛇穴という漢字を宛てた人とは、祖父母と孫との続きだったかも知れぬし、またもっと離れていたかも知れぬ。その心持は前後同じであったとは限っていない。子供の名前などこそ近来は始めから文字によって付けるが、それでも人からは始終まちがえて書かれる。まして久しい間口でばかり呼んでいて、何か必要があって記録の上に、それも咄嗟の間に文字にして掲げるのだから、当字が必ずしも最初の意味を、代表しておらぬのは不思議でない。大和の地名には漢字渡来前、さらに何百年も古いものが段々ある。しかも一方にこれが現存の記録となったのは、阿直岐や王仁よりもまた何百年か後のことで、両者の間隔は大分開いている、ということに注意する必要が、この地方はことに大きいのではないかと私は思う。
ちょうど適切な例だからサラギ蛇穴の問題に触れるが、決して野村さんの説を駁する意味ではない。同じく前代大和人の判断を、推測せしめる痕跡とはいいながら、土地をサラギと呼び始めたのも一つの事実、それに蛇穴の字を用いることにしたのもまた一つの別の事実で、私はこの間にかなりの歳月があったものと思っている。