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くちびるそう
唇草
岡本 かの子
「週刊朝日」1937(昭和12)年8月2日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,002 字 · 14 页
この位のことはしてくれてもいいですよ。あなたがいくら嘘嫌いな聖女でも若いもののロマン性はお互いに庇い合いましょう」
私はこの時もあまり同感出来なかったが、彼の保証人になっている私の父に告げることは、控えといてやった。
千代重が入り込んだ踏花園は、旧幕時代評判の下屋敷の庭を、周囲の住宅の侵蝕から、やっと一角だけ取り残したという面影を留めている園芸場で、西南の市外にあった。今は埋められて金蓮花の畑地にした平地の上に架かっている切石の橋や、枝振りよく枯れて立っている亀島の松によって、庭園は相当凝った、小堀遠州系の池泉廻遊式であったことが想像される。日当りのいい中央部に研究室と温室があって、住宅は杉林の蔭の銭苔の多い位置に虐待されてるように、片付けられていた。昔は庄屋でも住んでいたらしい大きな藁屋だが、古錆びてやや傾いていた。湯殿と便所と応接間だけを洋風に明るく改築して、あとは強情に旧態を遺していた。
主婦の栖子は、園主で園芸技師の尾佐とは恋愛から、無理に富裕な実家を抜け出て、この踏花園に同棲したものなのだが、だんだん掴みにくくなる尾佐の性格に根気も尽きるほどになっていた。