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しじゅうふわく

四十不惑

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,633 字 · 26 页

青空文庫

妻が持て余していたことも直ぐに分った。

「先刻の弁解ながら伺いました。勝手を申上げて恐れ入りますが、お聴き取り下さい」

と言って、青年は名刺を出した。太平洋画会会員という肩書がある。

「絵かきさんですか?」

僕は少し安心した。同時に凝っと顔を見て、やはり純な青年だろうと思った。

「はあ。実は僕達若手のものが高島屋の百選会の帯地に絵を頼まれて、僕も二十本引受けました。未熟ですけれど、偶然一本だけ快心のものが出来ました。これは残して置きたいと言ったんですが、先方の品物だからと言って、取扱人がそのまゝ渡してしまいました。僕はあの帯を買ってくれる人こそ僕の芸術を認めてくれる人だと思っていました。すると今朝友人を訊ねる為めにこの次の駅まで行く途中、電車の中であの令嬢を見かけたんです。どうも僕の描いた帯らしいんです。羽織を着ていらっしゃるから、後ろの方は分りません。芙蓉の模様です」

「あら、あの帯なら私が買ったんでございますよ」

と妻が乗り出した。

「奥さんでいらっしゃいますか? これは有難うございました」

「よく出来ていますわね。でも、私には少し派手ですから、あのお嬢さんに差上げました」