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しじゅうふわく

四十不惑

佐々木 邦

「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,633 字 · 26 页

青空文庫

僕です」

「何の為めにそんなことをするんですか?」

「さあ。一寸申上兼ねます。考えて見ると、僕は礼儀作法を欠きました。申訳ありません。失礼させて戴きます」

「今度こういうことをすると、警察へ知らせますよ」

「御道理ですけれど、僕は決して悪意のあるものではありません」

青年は丁寧にお辞儀をして駅の方へ向った。首をかしげながらノロ/\と行く。振り返った。僕がまだ立っていたのに驚いて、今度はトッ/\と歩き出した。やはり一種の痴漢か知ら? どうも変な男だと思った。

「人違いをしてついて来たんじゃないでしょうか?」

僕は小柴さんに心配させまいと思い、事実そうかとも考えたのだった。

「いゝえ。電車の中でも私をジロ/\見ていましたから」

「あなたがお綺麗だからよ」

と妻がからかった。

小柴さんはお稽古が済むと食事をして帰るのが常だった。しかしその日はいつものように嬉々として話さなかった。あの人が又どこかに待ち伏せをしているのではなかろうかという不安があった。妻も察して、僕を駅まで送らせた。電車に乗り込むところまで確かめて帰って来たら、驚いたことに、例の青年が玄関に立っていたのである。