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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

ずにいたんです」

「おまえが聞いた」重三郎は殆んど叫び声をあげた、「そして取次がなかったというのか」

「取次がなかったばかりでなく、深松さまのいらしったことさえ黙っているようにと、玄関の者に申しつけました」

重三郎は「はっ」と息を吐き、主税介を見て、すぐ千世のほうへ向き直った。

「なぜだ、わけを云え」と彼は叫んだ、「しだいによってはそのままには置かんぞ」

「申します、なにもかも申します」千世は主税介のほうを見た、「旦那さま、わたくし正直に申します、あのときは私闘が法度だからと申上げました、武士の妻として、良人に法度をやぶらせたくないから、黙っていたと申しました」

「千世はそう云った」と主税介が云った、「江木さん、それが、千世の黙っていた理由なんだ」

「いいえお待ち下さい、そうではなかったのです」と千世が云った、「あのときはそう申しましたけれど、本当はみれんな気持からでした、あなたにもしものことがあってはいけない、危ない場所へはやりたくない、ただそう思う気持がいっぱいでした」千世の喉を嗚咽が塞いだ、しかし彼女は続けた、「わたくしにはあなたが大事でした、いつもお側にいたい、いつまでも、……どんなものにも代えることはできない、あなたが御無事でいて下さりさえすれば、ほかのことはどうなってもいい、夢中でそう思って、それがみれん