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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

四

客を送ったあと、居間へ戻るなり主税介は独り言を云った、低いけれども憤懣のこもった調子で、延べてある茣蓙の端を踏みつけながら云った。

「なんということだ、なぜおれに知らせて来なかった、深松はどうしたのだ」

千世はその呟きを聞いた。その声には怒りと疑惑がこもっていた。自分だけが除外された怒りと、なぜ除外されたかという疑惑とが、千世の耳にもはっきり聞きとれるようであった。

そのとき千世は、三たび吐きけにおそわれた。

明くる日、主税介は登城して、城中で詳しいことを聞いた。羽形与茂八と荒木織馬がまた出会ったのである。与茂八は井上十蔵といっしょだったし、織馬には三人の伴れがあり、しかも双方が酔っていた。喧嘩は初めその六人でする筈だったところ、いちど帰宅した井上十蔵が、家の近い深松伊織に話し、「相手は四人だから手を貸せ」と云った。伊織は十蔵と共に与茂八の家へゆき、そこで酒になった。

四

荒木織馬のほうでも、同じようになかまが集まり、やはり酒を飲んで気勢をあげたらしい。羽形の家では池上安左衛門を呼び、末広忠之進を呼んだ。それが夜の十一時過ぎで、まもなく荒木織馬から使いが来た。