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よっかのあやめ
四日のあやめ
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页
だとは気がつかずに黙っていたのです」
「それでいいんだ千世、それでよかったんだよ」
「いいえ悪うございました、どんなに悪かったかということは、わたくしにもだんだんわかってきたのです」千世は声をあげて泣いた、「世間の悪い評判を聞き、あなたがじっとこらえていらっしゃるのを見て、自分のしたことがどんなに悪かったか、どんなに取返しのつかないことだったかということがわかりました。――わたくし、いつ離別して頂こうかと、ずっと、そればかり考えていたんです」
千世は両手をつき頭を垂れた。すると重三郎が立ちあがって、乱暴に妹の腕をつかみ、ふるえる声で云った。
「立て、千世、――五大へは改めて詫びに来る、立って支度をしろ」
「その手を放せ、江木」と主税介が云った、「それはおれの妻だ」
よく徹る屹とした声であった。重三郎は妹の腕を掴んだまま静止した、千世の眼から涙が、(音を立てるほどに)ぽろぽろと畳へこぼれ落ちた。
「千世が黙っていたのは正しかった」と主税介は云った、「江木にもわからない、おれ自身もわからなかった、しかし今日わかった、あのときのなかまが和解して、大林寺で酒宴を催すと聞いて、おれは初めて、千世の黙っていたことが正しかったと気がついた、考えてみろ、江木、――あのとき千世が取次いだらどうなったと思う」