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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

「帰っていいだろうか」と重三郎が云った。

「いいだろう」と主税介が云った、「但し離別うんぬんは取消していってくれ」

「明日、挨拶に来る」

重三郎はついにこちらを見ずに出ていった。

その夜半、――千世の寝間へ主税介が入っていった。千世は眠っていた。長いあいだの精神的な苦しみから解放されて、いかにも安心しきったような寝顔であった。主税介は夜具の衿に手をかけた。すると千世が眼をさました。熟睡からさめて、良人がそこにいることを認めると、彼女はすぐに起きあがった。

「そのままでいいんだ」

「いいえあちらで」千世は両手で抱きついた。寝衣の袖がずれて、腕がすっかり裸になった。彼女はその裸の腕で良人に絡まりながら、うっとりとした声で囁いた、「わたしあちらのほうが好き、あなたの匂いのするお寝間のほうが、ねええ」

「こうか」と主税介が云った。

「ああ」と千世が云った、「あなた」

主税介は妻を抱えて自分の寝間へ戻り、あいだの襖を閉めた。