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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

主税介は黙って剃刀を使った。それからまた顔を洗い、着替えをして食膳に向った。

彼は口数の少ない男であった。千世と結婚してから幾らか変ったが、それでも口数は少ないほうであった。千世はそういう彼が好きであった。彼は自分に対して厳しく、精神的にも肉躰的にも、常に洗いあげたように清直で凛としていた。千世は彼の凛としているのが好きであった。彼が背骨をまっすぐにして、折目正しく動作をし、必要なこと以外には口を出さず、感情にむらもなく、いつも彼らしい彼でいるのが好きであった。

千世は彼に恋をして結婚した。

五大家は馬廻りの二百二十石。実家の江木は百九十石で、兄の重三郎は納戸役を勤めていた。重三郎は彼より四歳年長であるが、学問所で知りあってから親しくなり、ひところは互いに招いたり招かれたりしたものであった。

――五大は人物だ、あの若さで立派に風格をそなえている、ああいうのを古武士の風格というのだ。

重三郎がそう云うのを、千世は幾たびとなく聞いた。そしてそのたびに自分が褒められているような嬉しさと、彼への思慕が深く強くなるのを感じた。その想いが恋であることに気づいたのは十五の年で、千世はそれを勇敢に兄へ告白した。