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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

――そのとき主税介は城下にいなかった。彼は刀法を修業するために、日向の国の高鍋という処へいっていた。そこに隈江流という珍しい流儀があり、古法だというのを聞いてでかけたのであった。

千世の告白を聞いた重三郎は、笑いながら「そんなことはお母さまか志津に話すものだ」と云った。兄には志津という妻がい、もう二歳になる幾三郎という子もあった。だが千世は母にも嫂にも話す気にはなれなかった。兄ならわかってくれるし、味方になってくれると思った。

――だがそれは考えものだな。

千世が本気だとわかると、重三郎もまじめになって云った。

――おまえの性分は五大とは合わない、結婚しても幸福にはなれないと思う。

――わたくしの望みは幸福ではなく、あの方の妻になることですわ。

千世はこう答えた。

よくも云えたものだ、と、いま彼女は思う。若さと負け嫌いと、そうして相手が兄だったから云えたのだろう、あのとき自分は勝ったのだ。いま彼女は心の中でそう呟きながら、良人の横顔をうっとりと見まもるのであった。

主税介は茶を喫して立つと、居間へいって茣蓙をひろげた。それを慥かめてから、千世も朝食の膳に坐った。