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よっかのあやめ
四日のあやめ
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页
しかし、召使のお琴の給仕で箸をとると、胸が重苦しくなり、吐きけがこみあげてくるようで、どうにも喰べ物が喉をとおらなかった。
――もう時刻は過ぎている、二度めの迎えが来るならとっくに来ている筈だ、もう大丈夫だ。
こう自分に云い聞かせたりしたが、ついに諦めて膳を片づけさせた。
主税介は横笛を作っていた。それが彼の唯一つの道楽であった。自分で竹を捜すことから始め、仕上げまですべて自分でやる。竹を捜して歩くのも楽しいらしい、枝付きのものや、桜皮で巻いたものや、生地のままのや、塗ったものなど、すでに十二管ほど作ったという。そのうち五管は人に懇望されて遣り、家にはいま七管だけ残っていた。
彼はいま歌口を刳りながら、頭の中ではべつのことを考えていた。十日のちに猪狩りが行われるが、これは七年ぶりのことで、全藩を挙げての大掛りな計画であった。というのが、藩の財政逼迫で、長いあいだ藩士の禄米が借上げになっていた。そのため狩りの行事なども延期されて来たのであるが、去年(寛保三年)十一月、藩主の監物忠辰が帰国したとき、この借上げを解除し、全藩士の禄米を旧に復したうえ、倹約と尚武の訓令を出した。