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しおばな

塩花

豊島 与志雄

「世界」1946(昭和21)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,421 字 · 25 页

青空文庫

広間のなかに、幾つかの大卓が置き合せられて、真白な卓布に覆われていた。その真中に、蘇鉄の鉢植えが一つ置かれていたが、これがたいへんよかった。青い鉢、苔むした土、大小五本の茎から出てる雄壮な葉など、見る眼に楽しかった。それをかこんで、いろいろなものが並んでいた。ビスケット、ホットケーキ、紅茶皿、干柿、鰺の乾物、塩ゆでの車鰕、こまかく裂いた※、南京豆、ビール瓶、コップ、茄子と瓜の味噌漬、林檎と蜜柑、小皿類……。

中央の鉢植えの蘇鉄が、一座を幾つかに仕切った恰好だったので、誰もすべての人々の眼に曝される危険がなかった。そして、自由に飲食が出来たばかりでなく、各所に自由な話題を展開することが出来た。――或る将軍は、東京が空襲下にあった時のことを追想し、地方に逃避した人々のことを偲び、戦場生き残りという感懐を語った。――或る伯爵は、干柿の味をほめ、各地の名産物についての知識を披瀝した。――或る官吏は、ダンスを論じて、欧米のサロンに於けるダンスは自然に自由に座席を転じ得る社交方法だと説いた。――或る政治家は、新たに参政権を与えられる婦人の投票が、保守的な方面に多く集るだろうと予測した。