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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

」

足を洗って上って来た彼の顔は真赤だった。その額に辰代が手をあててみると、火のように熱く感じられた。

「まあ大変なお熱でございますよ。すぐお寝みなさらなければいけません。……澄ちゃん、床を敷いておあげなさいよ。」

澄子がまだ袴をつけてるのを見ると、辰代は自分から二階に上っていって、寝床を敷いてやり、濡れた着物を寝間着に着代えさしてやって、それから暫く枕頭に坐って様子を見守った。

「大したことじゃありません。」と今井は云った。「雨に当ったからかっとしたんです。少し寝ていればじきになおります。」

「でも兎に角、晩にはお粥が宜しゅうございますよ。拵らえて差上げましょう。」

そして辰代は夕方、粥や梅干や一寸した煮肴などを持っていったが、今井は何も食べたくないと云って、それには手もつけないで、ただしきりにお茶ばかり飲んでいた。小用に立って下りてくる時には、足がふらふらしていた。それでも大したことはないと云い張って、薬も手当も一切断った。

辰代は心配しだした。中村が病院から帰ってくると、診てやってくれと頼んだ。

「どうされたんです? 熱がおありですか。」

そう云って中村は今井の室にはいっていった。