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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

」

そして彼女は、バケツに水をなみなみと汲んで、歯をくいしばりながら平気を装って、とっとと運んでいった。

水ばかりではなく、少し目方のある物に対すると、今井はいつも重いというのを口癖のようにした。それからまた、何をしてもすぐ疲れたと云った。

「今井さんの弱虫!」と澄子は笑った。

「そんなことを云うものではありません。」と辰代はたしなめた。「屹度どこか身体がお悪いんですよ。中村さんに聞いてみましょうか。なおるものなら早くなおしてあげた方がようござんすから。」

「いくら中村さんだって、診察してみなければ分りゃしないわ。そして今井さんは、医者にみて貰うのが、あの通り大嫌いでしょう。とても駄目よ。」

それでも辰代は気にかかって、或る時中村に相談してみた。中村は注意深く辰代の言葉を聞いていたが、ふいに笑い出した。

「いや何でもありませんよ。」と彼は云った。そして澄子の方を向いた。「澄ちゃん、用心しなけりゃいけないよ。」

「どうして?」

中村はなお薄ら笑いをしながら、それきり何とも云わなかった。

その意味が、辰代と澄子とには解せなかった。そして辰代はそれを、やはり何か病気の暗示だという風に考えた。