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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

その余勢かと思われるほどすぐに、畳へ両手をつき頭を下げた。

「私が悪うございました、許して下さい。」

余りに急な意外なことなので、辰代も澄子もぼんやりした所へ、今井はまた繰返した。

「許して下さい。謝りますから、許して下さい。」

真面目だとも不真面目だとも分らない気分に支配された、動きの取れない沈黙が落ちてきた。そこへ、素知らぬ顔で縁側に佇んでいた中村が、のっそりはいって来て火鉢の横手に坐った。

「今井さんも謝ると云うんだから、もういいじゃないですか。」と彼は辰代に云った。

それが却って、辰代にとっては助けだった。

「謝ってそれで済むことではございません。」と彼女は云い出した。「あんまり人を踏みつけにしています。私は何も、足駄一つくらいどうのこうのと申すのではありません。御自分の胸にお聞きなすったら、大抵分りそうなものです。出ていって頂きましょう。私共ではもうきっぱりとお断りします。」

そう云い捨てて彼女は、荒々しく奥の室にはいっていった。がすぐに、襖の影から呼びかけた。

「澄ちゃん、あなたもこっちへいらっしゃい。」

澄子は暫くためらった後に、中村から眼で相図をされて、漸く立っていった。