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なつのよのぼうけん
夏の夜の冒険
平林 初之輔
「文学時代 第二巻第九号」新潮社、1930(昭和5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,930 字 · 12 页
――しげるちゃんはいつから御飯を食べないの?
――昨日の朝からなんにも食べないの。
――お母さんが食べさしてくれないんだね?
――…………うん。
女給の一人はもうハンカチを出して眼をふいていた。
事情はもう明白だった。しげるの母親は継母なのだ。それにしても、こんな深夜に、九つぐらいの子供がどっかへ行方不明になっているとすれば、家では大騒ぎをしているに相違ない。
――これからおじさんたちが送っていって、母ちゃんによくあやまってあげるからね、一緒に帰ろうよ。
ライスカレーを一皿平らげてしまって、きょとんとして宙を見つめていた彼は、しばらくしてから言った。
――いやだ、僕、家へ帰るのはいやだ。今度帰ったら承知しないって母ちゃんが言ったんだもの。
私たちは、子供をカフェにあずけておいて、子供にきいた道を辿っていった。
暗いのに軒灯のない家が並んでいるので、燐寸をすっていちいち表札の文字をすかしすかし、探さねばならなかった。
蚕事試験場の少し手前を右へ折れた路次でやっと目的の家をさがしあてるまでに三十分はたっぷりかかった。
木戸を開けようとすると内側から鍵がかかっていて中々あかない。