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なつのよのぼうけん

夏の夜の冒険

平林 初之輔

「文学時代 第二巻第九号」新潮社、1930(昭和5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,930 字 · 12 页

青空文庫

――九つ。

――何年生?

――三年生。

――苗字は何ていうの?

――刈谷ってんの。

ここまではすらすらと答えたが、それからあとは、少しずつ口ごもるようになった。

――お父さんはあるの?

――うん。

――お母さんも?

――うん。

――お父さんの名前は何ていうの?

――刈谷長太郎っていうの。

――何をしてるの?

――会社へつとめてるの。

――しげるちゃんどうしてあんなところにいたんだい?

――…………

――家へ帰る道がわからないのかい?

――…………

――これからおじさんたちが送ってあげるからね、一緒に帰ろうよ。道はわかってるんだろ。

――道はわかってるけれど、僕かえるのいやなんだ。

この答えは、四方からのぞきこんで質問をあびせかけていた、みんなのものをあっけにとらせた。

――どうしていやなの、自分の家へかえるのが?

――叱られるんだもの。ぶたれるんだもの。

――誰に? どうして? 何か悪いことをしたの?

――なんにもしないんだけど、僕が家へかえると母ちゃんが怒ってぶつんだ。

子供は泣きだしそうな表情をしていたが、それでも、九つぐらいの子供にしては、言葉は実に明晰だったし、少しませすぎてはいたが、少なくも頭のよい子供であることは明らかだった。