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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

原民喜『夏の花・心願の国』。同一底本的分册已合并为一书。收入:夏の花、苦しく美しき夏、秋日記、冬日記、美しき死の岸に、死のなかの風景、火の唇、壊滅の序曲、廃墟から、鎮魂歌、永遠のみどり。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 152,816 字 · 310 页

青空文庫

……古本屋へ立寄ってみても、書籍の変動が著しく、狼狽と無秩序がここにも窺われた。「何か天文学の本はありませんか」そんなことを尋ねている青年の声がふと彼の耳に残った。

……電気休みの日、彼は妻の墓を訪れ、その序でに饒津公園の方を歩いてみた。以前この辺は花見遊山の人出で賑わったものだが、そうおもいながら、ひっそりとした木蔭を見やると、老婆と小さな娘がひそひそと弁当をひろげていた。桃の花が満開で、柳の緑は燃えていた。だが、正三にはどうも、まともに季節の感覚が映って来なかった。何かがずれさがって、恐しく調子を狂わしている。――そんな感想を彼は友人に書き送った。岩手県の方に疎開している友からもよく便りがあった。「元気でいて下さい。細心にやって下さい」そういう短い言葉の端にも正三は、ひたすら終戦の日を祈っているものの気持を感じた。だが、その新しい日まで己は生きのびるだろうか。……

片山のところに召集令状がやって来た。精悍な彼は、いつものように冗談をいいながら、てきぱきと事務の後始末をして行くのであった。

「これまで点呼を受けたことはあるのですか」と正三は彼に訊ねた。