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なつのはな

夏の花・心願の国

原 民喜

原民喜『夏の花・心願の国』。同一底本的分册已合并为一书。收入:夏の花、苦しく美しき夏、秋日記、冬日記、美しき死の岸に、死のなかの風景、火の唇、壊滅の序曲、廃墟から、鎮魂歌、永遠のみどり。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 152,816 字 · 310 页

青空文庫

廃墟から

八幡村へ移った当初、私はまだ元気で、負傷者を車に乗せて病院へ連れて行ったり、配給ものを受取りに出歩いたり、廿日市町の長兄と連絡をとったりしていた。そこは農家の離れを次兄が借りたのだったが、私と妹とは避難先からつい皆と一緒に転がり込んだ形であった。牛小屋の蠅は遠慮なく部屋中に群れて来た。小さな姪の首の火傷に蠅は吸着いたまま動かない。姪は箸を投出して火のついたように泣喚く。蠅を防ぐために昼間でも蚊帳が吊られた。顔と背を火傷している次兄は陰鬱な顔をして蚊帳の中に寝転んでいた。庭を隔てて母屋の方の縁側に、ひどく顔の腫れ上った男の姿――そんな風な顔はもう見倦る程見せられた――が伺われたし、奥の方にはもっと重傷者がいるらしく、床がのべてあった。夕方、その辺から妙な譫言をいう声が聞えて来た。あれはもう死ぬるな、と私は思った。それから間もなく、もう念仏の声がしているのであった。亡くなったのは、そこの家の長女の配偶で、広島で遭難し歩いて此処まで戻って来たのだが、床に就いてから火傷の皮を無意識にひっかくと、忽ち脳症をおこしたのだそうだ。

病院は何時行っても負傷者で立込んでいた。