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なつのはな
夏の花・心願の国
原 民喜
原民喜『夏の花・心願の国』。同一底本的分册已合并为一书。收入:夏の花、苦しく美しき夏、秋日記、冬日記、美しき死の岸に、死のなかの風景、火の唇、壊滅の序曲、廃墟から、鎮魂歌、永遠のみどり。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 152,816 字 · 310 页
「気の毒だからな、これから遺骨を迎えに行くときいては見捨ててはおけない」と彼は独言を云った。すると、
「私にも米を売ってくれませんか」という男が現れた。ギロリとした眼つきの男は、
「とんでもない、俺達は朝鮮から帰って来て、まだ東京まで行くのだぜ、道々十里も二十里も歩かねばならないのだ」と云いながら、毛布を取出して、「これでも売るかな」と呟くのであった。
広島駅に来てみると、呉線開通は虚報であることが判った。私は茫然としたが、ふと舟入川口町の姉の家を見舞おうと思いついた。八丁堀から土橋まで単線の電車があった。土橋から江波の方へ私は焼跡をたどった。焼け残りの電車が一台放置してあるほかは、なかなか家らしいものは見当らなかった。漸く畑が見え、向うに焼けのこりの一郭が見えて来た。火はすぐ畑の側まで襲って来ていたものらしく、際どい処で、姉の家は助かっている。が、塀は歪み、屋根は裂け、表玄関は散乱していた。私は裏口から廻って、縁側のところへ出た。すると、蚊帳の中に、姉と甥と妹とその三人が枕を並べて病臥しているのであった。手助に行ってた妹もここで変調をきたし、二三日前から寝込んでいるのだった。