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なつくさせんき

夏草戦記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,107 字 · 41 页

青空文庫

大きな朴の木の下で腰兵粮をひらきながら、弥兵衛は使番をやって三瀬新九郎を呼ばせた。新九郎はすぐに来た、二十四五になる背丈の高いからだで、面長の眼の澄んだ、おとなしそうな顔つきの若者だった。お召しでございますかといってかれが面前へ立ったとき、小谷弥兵衛はうんとうなずいたなり言葉に詰った、棚倉での出来事を訊こうと思って呼んだのだが、いまさらかれに訊くことはないと、また初という娘のことを話したところで若者の心をいたずらに騒がせるだけである、つまり呼んでみてもしかたがなかったのだ。

「三瀬新九郎でございますがなにか御用ですか」

「うん、……そのほう、今日からおれの下へつかぬか、相良へはおれからそう申してやるが」

手もとで遣ってみたいとふと思いついたのでそう云った。新九郎はけげんそうに眼をみはっていたが、

「有難うございますが、できることならこのまま尖隊に置いて頂きたいと存じます」

「おれの下では窮屈とでも思うのか」

「さようなことではございません、ただ尖隊におりますほうが、わたくしにははたらき甲斐があるように思えますので……」

尖隊は道をしらべ、敵の状況をさぐりつつ本隊を導くのが役目だった、ほねもおれるがそれだけやりがいもある、新九郎がそこから離れたがらないのも無理ではないだろう、もともとその場の思いつきで云ったことだから