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なつくさせんき

夏草戦記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,107 字 · 41 页

青空文庫

七

踏み消し、落ちている死者の持物を桑畑の中へ投げこみ、すっかりあとを片づけると、はじめて銃を取って坂道をおのれの持場へと馳け登っていった。滑りやすい坂を登りつめて、松林のほうへ曲ろうとしたときである、いきなり闇のなかから「待て、なに者だ」と叫んで、がんどう提燈を真向へさしつけられた。とつぜんでもあったし息もつかずに馳けあがって来たので、かれにはすぐ返答ができなかった。誰何したのは小谷弥兵衛だった、うしろには吉岡小六がいた、「おまえは三瀬新九郎だな」弥兵衛はあゆみ寄りながら云った、「どこへいっていた、おまえは立番ではなかったのか」

「立番でございました」

「立番には掟がある、知っているか」

「はい」新九郎は姿勢を直して云った、「ゆるしなくして持場を離れたる者は、仔細を問わず死罪たるべきこと」

弥兵衛は聞き終るなりくるりと踵をかえし、うしろにいた吉岡小六に向ってはっきりと云った、「三瀬新九郎は掟にそむいた、帯刀をとって宿所へ曳け」

七

戸田源七がはなしを聞いたのは三更を過ぎてからだった。かれはすぐ宿所へ馳けつけた、吉岡小六は行燈のそばでなにか書き記しているところだったが、源七をみると黙って自分の前にある席をさし示した。