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なつくさせんき

夏草戦記

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1943(昭和18)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,107 字 · 41 页

青空文庫

戻って来たのはまぎれもなく相良官兵衛だった、かれは新九郎のすぐ眼の前をとおって、坂のほうへと大股に登っていった。新九郎はそこへ銃を置き、足音をしのばせてうしろからしずかに追いついた、

「お待ち下さい」

とつぜんうしろから呼びかけられて、官兵衛はあっと叫びながらふり返った、新九郎はその驚愕の真向を叩くように、ずかずかとあゆみ寄りながら云った。

「三瀬新九郎です、いまの始終を見ていました」

「……なに、なに」

「すっかり見ていたんです、ご弁明がありますか」

それは念のためのたしかめだった、しかしその言葉が終らぬうち、官兵衛はいきなりがんどう提燈を投げつけ、するどく叫びながら抜き討ちをあびせかけた。もちろん期したことである、というよりもむしろそれは事実がたしかめられた証拠だった、――まちがいない、という確信はそのまま「斬る」という決意につながった、官兵衛の抜き討ちを躱しもせず、新九郎は踏みこんでちからいっぱい大剣を打ちおろした。ものを吐くような喚きごえと、強い手ごたえがあり、官兵衛は道の上へだっとのめった、新九郎はさらにその頸の根へ一刀いれてうしろへとび退った。