轻松读懂日语经典作品
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ゆうもやのなか
夕靄の中
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,522 字 · 19 页
「ええ、そうです、……繁二郎ですが」
「やっぱりそうでしたか、いねからお名前だけは伺っておりました、あれは御存じのように口の重いこでございます、詳しいことはなにも申しませんでしたけれど、でも、……病気がいけなくなってから、うわごとによくお名前をお呼び申しておりました」
彼は顔をそむけた。老女の声はふるえ、その眼はにわかに強く、期待と哀願の色をこめて、彼を見あげた。
「仰しゃって下さいまし、貴方はあれと、なにか約束をして下すったのではございませんか」いたましいほどおろおろと云った、「――あれは息をひきとるまで、貴方がおいで下さるのを待っていたようでございます、なにか、二人のあいだになにか、約束をして下すったことがあるのではございませんか」
彼は暫く答えない。顔をそむけたまま、じっと息をひそめている。それからやがて、静かに、頷いてみせた。
「――ああ」
老女は手で口を押えた。
いつのまにか靄がたって、墓地はうすい鼠色にたそがれてきた。彼は老女の語るのを聞きながら、頭はやはりあの男から放れない、耳も眼も、絶えずそのほうへひきつけられている。
「わたくしが今どんなに嬉しいか、とてもわかっては頂けないでしょう」