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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

し切った娘であることを、はっと固唾を飲むくらいありありと示していた。

もっとも、小沢はいたずらに固唾を飲んで、いたずらに観察していたわけではない。

そんな余裕はなかった。

とにかく娘は、

「助けて下さい!」

と、言っているのだ。

しかし、どう助ければいいのか。――いや、そんなことを考えている場合ではない。

何はともあれ、小沢は著ていたレインコートをあわてて脱いだ。(そのレインコートは軍隊用のものだから、もっと別の名があった筈だが、この際そんなことはどうでもよい)

そして、娘の裸の体へぱっと著せてやった。

「ありがとう」雨の音で消されてしまうくらいの小さな声で言って、娘は飛びつくように、レインコートにくるまってしまうと、ほっとしたようだったが、しかし、なお恐怖の去らぬらしい険しい表情を、眉に見せて、

「…………」

小沢にすがりついて、ガタガタ顫えていた。

言葉がないだけに、一層必死の気持が現れているようだった。

「…………」

小沢も口は利かず、咄嗟に身構える姿勢で、その娘が来た方向へ、眼を光らせた。

そして、暗がりの中に不気味に光っている雨足を透して、じっと視線を泳がせていると、ふと黒く蠢いた気配がした。