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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

その晩、文太夫が半蔵や寿平次に取り出して見せた書面は、ある松代の藩士から借りて写し取って置いたというものであった。嘉永六年六月十一日付として、江戸屋敷の方にいる人の書き送ったもので、黒船騒ぎ当時の様子を伝えたものであった。

「このたび、異国船渡り来り候につき、江戸表はことのほかなる儀にて、東海道筋よりの早注進矢のごとく、よって諸国御大名ところどころの御堅め仰せ付けられ候。しかるところ、異国船神奈川沖へ乗り入れ候おもむき、御老中御屋敷へ注進あり。右につき、夜分急に御登城にて、それぞれ御下知仰せ付けられ、七日夜までに出陣の面々は左の通り。

一、松平越前守様、(越前福井藩主)品川御殿山お堅め。

一、細川越中守様、(肥後熊本藩主)大森村お堅め。

一、松平大膳太夫様、(長州藩主)鉄砲洲および佃島。

一、松平阿波守様、(阿州徳島藩主)御浜御殿。

一、酒井雅楽頭様、(播州姫路藩主)深川一円。

一、立花左近将監様。伊豆大島一円。松平下総守様、安房上総の両国。その他、川越城主松平大和守様をはじめ、万石以上にて諸所にお堅めのため出陣の御大名数を知らず。

公儀御目付役、戸川中務少輔様、松平十郎兵衛様、右御両人は異国船見届けのため、陣場見回り仰せ付けられ、六日夜浦賀表へ御出立にこれあり候。