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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

ただ仏祖の旧恩を守って、道を道とするに、どうして片手落ちの異見を受くべきであろうぞ。朝旨に戻らず、三条の教憲を確と踏まえて、正を行ない、邪をしりぞけ、権衡の狂わないところに心底を落着せしめるなら、しいて天理に戻るということもあるまい。自分らごときは他人の異見を待たずに、不羈独立して大和魂を堅め、善悪邪正と是非得失とをおのが狭い胸中に弁別し、根本の衰えないのを護念して、なお枝葉の隆盛に懸念する。もとより神仏を敬する法は、みな報恩と謝徳とをもってする。これを信心と言う。自分の身に利得を求めようとするのは、皆欲情である。報恩謝徳の厚志があらば、神明の加護もあろう。仏といえども、道理に違うことのあるべきはずがない。自分らには現世を安穏にする欲情もなければ、後生に善処する欲情もない。天賦の身は天に任せ、正を行ない邪に組せず、現世後生は敵なく、神理を常として真心を尽くすを楽しみとするのみだから、すこしも片手落ちなどの欲念邪意があることはない。これが松雲和尚の包み隠しのないところであった。

禅僧としての松雲は動かないように見えて、その実、こんなに静かに動いていた。