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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

第十二章

そして急ぎ引きさがって、額を大地につけ、袴のままそこにひざまずいた。

「訴人だ、訴人だ。」

その声は混雑する多勢の中から起こる。何か不敬漢でもあらわれたかのように、互いに呼びかわすものがある。その時の半蔵はいち早くかけ寄る巡査の一人に堅く腕をつかまれていた。大衆は争ってほとんど圧倒するように彼の方へ押し寄せて来た。

第十二章

一

五日も半蔵は多吉の家へ帰らない。飛騨の水無神社宮司を拝命すると間もなく、十一月十七日の行幸の朝に神田橋外まで御通輦を拝しに行くと言って、浅草左衛門町を出たぎりだ。

左衛門町の家のものは音沙汰のない半蔵の身の上を案じ暮らした。彼が献扇事件は早くも町々の人の口に上って、多吉夫婦の耳にもはいらないではない。それにつけてもうわさとりどりである。主人持ちの多吉は茅場町の店からもいろいろなことを聞いて来て、ただただ妻のお隅と共に心配する。第一、あの半蔵がそんな行為に出たということすら、夫婦のものはまだ半信半疑でいた。

そこへ巡査だ。ちょうど多吉は不在の時であったので、お隅が出て挨拶すると、その巡査は区内の屯所のものであるが、東京裁判所からの通知を伝えに来たことを告げ、青山半蔵がここの家の寄留人であるかどうかをまず確かめるような口ぶりである。