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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
霊膳、茶、香花、それに燭台のそなえにも和尚の注意の行き届いた薄暗い部屋がそこにあった。
青山家代々の位牌は皆そこに集まっている。恵那山のふもとに馬籠の村を開拓したり、万福寺を建立したりしたという青山の先祖は、その生涯にふさわしい万福寺殿昌屋常久禅定門の戒名で、位牌堂の中央に高く光っているのも目につく。黒くうるしを塗った大小の古い位牌には、丸に三つ引きの定紋を配したのがあり、あるいはそれの省いたのもある。その面に刻した戒名にも、皆それぞれの性格がある。これは僧侶の賦与したものであるが、一面には故人らが人となりをも語っている。鉄巌宗寿庵主のいかめしいのもあれば、黙翁宗樹居士のやさしげなのもある。その中にまじって、明真慈徳居士、行年七十二歳とあるは半蔵の父だ。清心妙浄大姉、行年三十二歳とは、それが彼の実母だ。彼は伊之助と共に、それらの位牌の並んでいる前を往ったり来たりした。
松雲は言った。
「時に、青山さん、わたしは折り入ってあなたにお願いがあります。御先祖の万福寺殿、それに徳翁了寿居士御夫婦――お一人は万福寺の開基、お一人は中興の開基でもありますから、この二本の位牌だけはぜひとも寺にお残しを願いたい。