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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
た。お隅は、一鵬斎芳藤画くとした浮世絵なぞをそこへ取り出して来る。舶来と和物との道具くらべがそれぞれの人物になぞらえて、時代の相を描き出してある。その時になって見ると、遠い昔に漢土の文物を採り入れようとした初めのころのこの国の社会もこんなであったろうかと疑わるるばかり。海を渡って来るものは皆文明開化と言われて、散切り頭をたたいて見ただけでも開化した音がすると唄われるほどの世の中に変わって来た。夏は素裸、褌一つ、冬はどてら一枚で、客があると、どんな寒中でも丸裸になって、ホイ籠ホイ籠とかけ出す駕籠屋なぞはもはや顔色がない。年じゅう素股の魚屋から、裸商売の佃から来るあさり売りまで、異国の人に対しては、おのれらの風俗を赤面するかに見える。
旅の身の半蔵は、用達しのついで、あるいは同門の旧知なぞを訪ねるためあちこちと出歩くおりごとに、町々の深さにはいって見る機会を持った。東京は、どれほどの広さに伸びている大きな都会とも、ちょっと見当のつけられないことは、以前の彼が江戸出府のおりに得た最初の印象とそう変わりがないくらいであった。ここに住む老若男女の数も、彼にはおよそどれほどと言って見ることもできない。