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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

今は伊勢宇治の今北山に眠る旧師から、生前よく戯れに三蔵と呼ばれた三人の学友のうち、その日記を書いた香蔵のように郷里中津川に病むものもある。同じ中津川に隠れたぎり、御一新後はずっと民間に沈黙をまもる景蔵のようなものもある。これからさらに踏み出そうとして、人生覊旅の別れ路に立つ彼半蔵のようなものもある。

四

飛騨国大野郡、国幣小社、水無神社、俗に一の宮はこの半蔵を待ち受けているところだ。東京から中仙道を通り、木曾路を経て、美濃の中津川まで八十六里余。さらに中津川から二十三里も奥へはいらなければ、その水無神社に達することができない。旅行はまだまだ不便な当時にあって、それだけも容易でない上に、美濃の加子母村あたりからはいる高山路と来ては、これがまた一通りの険しさではない。あの木曾谷から伊那の方へぬける山道ですら、昼でも暗い森に、木から落ちる山蛭に、往来の人に取りつく蚋に、勁い風に鳴る熊笹に、旅するものの行き悩むのもあの山間であるが、音に聞こえた高山路はそれ以上の険しさと知られている。

この飛騨行きは、これを伝えてくれた恭順を通して田中不二麿からも注意のあったように、左遷なぞとは半蔵の思いもよらないことであった。