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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
彼が賢い継母を憚って来たことは幼年時代からで、「お母さんほどこわいものはない」と思う心を人にも話したことがあるほどだが、成人して家督を継ぎ、旧宿場や街道の世話をするようになってからは、その継母にすら隠れて飲むことはやめられなかったと白状する。
「でも、青山さん。お酒ぐらい飲まなくて、やりきれるものですかね。」
お隅はお隅らしいことを言った。
松の内のことで、このかみさんも改まった顔つきではいるが、さすがに気のゆるみを見せながら、平素めったに半蔵にはしない自分の女友だちのうわさなぞをも語り聞かせる。お寅と言って清元お葉の高弟にあたり、たぐいまれな美音の持ち主で、柳橋辺の芸者衆に歌沢を教えているという。放縦ではあるが、おもしろい女で、かみさんとは正反対な性格でいながら、しかも一番仲よしだともいう。その人の芸人肌と来たら、米櫃に米がなくなっても、やわらか物は着通し、かりん胴の大切な三味線を質に入れて置いて、貸本屋の持って来る草双紙を読みながら畳の上に寝ころんでいるという底の抜け方とか。お隅は女の書く手紙というものをその女友だちのうわさに結びつけて、お寅もやはり手紙はむつかしいものと思い込んでいた女の一人であると半蔵に話した。