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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

その男は外国人を連れて内地を旅することのまだまだ困難な時であることを半蔵に話し、人家の並んだ宿場風の町を通るごとに多勢ぞろぞろついて来るそのわずらわしさを訴えた。

「へえ、名物あんころ餅でございます。」

と言って休み茶屋の婆さんが手造りにしたやつを客の間へ配りに来た。唖の旅行者のような異人は通弁からその説明を聞いたぎり、試食しようともしなかった。

間もなく半蔵はこの御休処とした看板のかかったところを出た。その日の泊まりと定めた福島にはいって懇意な旅籠屋に草鞋をぬいでからも、桟の方で初めて近く行って見た思いがけない旅の西洋人の印象は容易に彼から離れなかった。過ぐる嘉永六年の夏に、東海道浦賀の宿、久里が浜の沖合いにあらわれたもの――その黒船の形を変えたものは、下田へも着き、横浜へも着き、三百年の鎖国の事情も顧みないで進み来るような侮りがたい力でもって、今は早瀬を上る鮎のようにこんな深い山間までも入り込んで来た。昨日の黒船は、今日の愛知県の教師だ。これには彼も驚かされた。

福島から王滝まで、翌日もまた半蔵は道をつづけ、行人橋から御嶽山道について常磐の渡しへと取り、三沢というところで登山者のために備えてある筏を待ち、その渡しをも渡って、以前にも泊めてもらった王滝の禰宜の家の人たちの声を久しぶりで聞いた。