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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
里宮の内部に行なわれた革新は一層半蔵を驚かす。この社殿を今見る形に改めた造営者であり木曾福島の名君としても知られた山村蘇門の寄進にかかる記念の額でも、例の二つの天狗の面でも、ことに口は耳まで裂け延びた鼻は獣のそれのようで、金胎両部の信仰のいかに神秘であるかを語って見せているようなその天狗の女性の方の白粉をほどこした面でも、そこに残存するものはもはや過去の形見だ。一切の殻が今はかなぐり捨てられた。護摩の儀式も廃されて、白膠木の皮の燃える香気もしない。本殿の奥の厨子の中に長いこと光った大日如来の仏像もない。神前の御簾のかげに置いてあった経机もない。高山をその中心にし、難行苦行をその修業地にして、あらゆる寒さ饑じさに耐えるための中世的な道場であったようなところも、全く面目を一新した。過去何百年の山王を誇った御嶽大権現の山座は覆されて、二柱の神の古に帰って行った。杉と檜の枝葉を通して望まれる周囲の森と山の空気、岩づたいに落ちる細い清水の音なぞは、社殿の奥を物静かにする。しばらく半蔵はそこに時を送って、自分の娘のためにも祷った。
禰宜のもとに戻ってから、半蔵は山でもながめながらその日一日王滝の宿に寝ころんで行くことにきめた。