轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
もし土屋総蔵のような理解のある人に今すこしその職にとどまる時を与えたらと、谷中の戸長仲間でそれを言わないものはなかった。不幸にも、総蔵は筑摩県の官吏らに一切を引き渡し、前途百年の計をあとから来るものに託して置いて、多くの村民に惜しまれながらこの谷を去った。
木曾地方が筑摩県の管轄に移されたのは、それから間もなくであった。明治五年の二月には松本を所在地とする新しい県庁からの申し渡し、ならびに布令書なるものが、早くもこの谷中へ伝達されるようになった。とりあえず半蔵らはその請書を認め、ついでにこの地方の人民が松本辺の豊饒な地とも異なり深山幽谷の間に居住するもののみであることを断わり、宿場全盛の時代を過ぎた今日となっては、茶屋、旅籠屋をはじめ、小商人、近在の炭薪等を賄うものまでが必至の困窮に陥るから、この上は山林の利をもって渡世を営む助けとしたいものであると、その請書を出す時には御停止木のことに触れ置いてあった。当時の信濃の国は長野県と筑摩県との二つに分かれ、筑摩県の管轄区域は伊那の谷から飛騨地方にまで及んでいた。本庁所在地松本以外の支庁も飯田と高山とにしか取り設けてなかったほどの草創の時で、てんで木曾福島あたりにはまだ支庁も置かれなかった。