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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

正香はそれを半蔵に聞かせようとして、何か自身に気に入ったものをというふうに、浣花渓の草堂の詩を読もうか、秋興八首を読もうかと言いながら、しきりにあれかこれかと繰りひろげていた。

「ある。ある。」

その時、正香は行燈の方へすこし身を寄せ、一語一句にもゆっくりと心をこめて、杜詩の一つを静かに声を出して読んだ。

※(「糸+丸」、第3水準1-89-90)袴不二餓死一、儒冠多誤レ身

丈人試静聴、賤子請具陳

甫昔少年日、早充二観国賓一

読レ書破二万巻一、 下レ筆如レ有レ神

賦料二楊雄敵一、詩看二子建親一

李※(「巛/邑」、第3水準1-92-59)求レ識レ面、王翰願レ卜レ隣

自謂頗挺出、立登二要路津一

致二君堯舜上一、再使二風俗淳一

此意竟蕭条、……………

そこまで読みかけると、正香はその先を読めなかった。「この意、竟に蕭条」というくだりを繰り返し半蔵に読み聞かせるうちに、熱い涙がその男らしい頬を伝って止め度もなく流れ落ちた。

五

正香は一晩しか半蔵の家に逗留しなかった。

「青山君、わたしも賀茂の方へ行って、深いため息でもついて来ますよ。」

との言葉を残して、翌朝早く正香は馬籠を立とうとしていた。