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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

鶴見はこういうことを夢みている。今一度童子となって、生みの母から、魔力にかかった昔々を聞いて、すやすやと長い眠りにつきたい。

厄落しということがある。夢もさっぱり落してしまったらばと、おりおり思う。それでもかれは夢から離れることもできず、夢もまたかれを離さない。

鶴見は例のとおり、ひとりで何かつぶやいている。

夢は呼び交す

秋もすえのころである。鶴見は夏の季に入ってからどこへも出ずに籠っていたので、久しぶりで、長谷の方へ出掛けてみた。古本屋をあさって、雑書を五、六冊手に入れて、それを風呂敷に包んで持っていた。さて引き返えそうとすると、ひどく疲れがでて、歩行もはかどらない。戦災以来弾力を失った脚はまだ十分に恢復していないのである。それにかかえている風呂敷も重かった。

そんなありさまで八幡社の境内までたどりついた。池の中央にはちょっとした出島がある。そこにはもと弁天堂があった。その跡が空地になっているのである。その空地でゆっくり休んだ。弁当も出して使ってみた。少し元気がついたので、予定していたことでありすぐ近くにある国宝館はやはり見てゆくことにした。