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むゆうびょうしゃのし
夢遊病者の死
江戸川 乱歩
「苦楽」プラトン社、1925(大正14)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,121 字 · 22 页
ところが、彼の父親にして見ると、折角勤め口が見つかったのを、何の理由もなく断って了う彼のやり方を、甚だ心得難く思うのである。というのは、父親はまだ、大きくなってから再発した彼の病気について、何も知らないからで、息子がどういう過失で木綿問屋をやめさせられたか、それさえ実はハッキリしない位なのだ。
ある日、一台の車がM伯爵の門長屋へ這入って来て、三畳と四畳半二間切りの狭苦しい父親の住居の前に梶棒を卸した。その車の上から息子の彦太郎が妙にニヤニヤ笑いながら行李を下げて降りて来たのである。父親は驚いて、どうしたのだと聞くと、彼はただフフンと鼻の先で笑って見せて、少し面目ないことがあったものだからと答えたばかりだった。
其翌日、木綿問屋の主人から一片の書状が届いて、そこには、今度都合により一時御子息を引取って貰うことにした。が、決して御子息に落度があった訳ではないからという様な、こうした場合の極り切った文句が記されていた。
そこで、父親は、これはてっきり、彼が茶屋酒でも飲み覚えて、店の金を使い込みでもしたのだろうと早合点をして了ったのである。そして、暇さえあれば彼を前に坐らせて、この柔弱者奴がという様な、昔気質な調子で意見を加えるのだった。