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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

23 他生の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 145,722 字 · 286 页

青空文庫

「そうして、白骨のお湯はその下にあるのですか」

やがて白骨の温泉場に着いて、顧みて小梨平をながめた時は、お雪もその明媚な風景によって、さきほどの恐怖が消えてしまいました。

もう、客はおおかた引いていますから、この一行は、存分に広い座敷を占領することができ、どっしりと落着いて、ほとんどわが家へ帰った心になりました。

ことに、竜之助はここへ着くと、まず第一に、「これから充分眠れる」という感じで安心しました。

これから思う存分に眠るのだ、大地のくぼむほど寝つくのだ、という慾望が何よりも先にこの人の心に起ったのは、今まで身を労することは少なかったとはいえ、その生涯は、ほとんど波に任せてただようと同じことの生涯で、夜半夢破れた時は、いつも枕の下に波の声を聞かぬこととてはない。聞くところによれば、ここは飛騨と信濃の境、晩秋より初春まで、住む人もなき家を釘づけにして里へ帰るのだと。恰もよし、これからようやくその無人の冬が来るのである。三冬の間をじっくりと落着いて、ここで飽くまで眠り通すに何の妨げがある。

竜之助は、その以前は眠ることを怖れたものです。眠ることを怖れたのではない、眠って夢を見ることを怖れましたが、今はそうではありません。