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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

37 恐山の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 254,021 字 · 495 页

青空文庫

「そいつだ」

「そうらごらん!」

お蘭は、失望と、揶揄と、ザマを見ろといったような捨鉢気分で突っころがすと、がんりきの百は真顔になって、

「そこは、何と言われても仕方がねえ、行って見ると逃げたんだ、和泉屋の芸妓福松という奴は、宇津木という若い侍をそそのかして、白山詣でにかこつけて駈落をきめこんだという専らの評判、そのあとへ罷り越したこの色男――」

「器量がよかったねえ」

四十九

ここで、がんりきの百の野郎が、淫婦お蘭どののためにさんざんに油を搾られました。

本来が、このお蘭は飛騨の高山の新お代官の妾である。

高山を出奔して、寝物語の里でうじゃついている間に、がんりきの百と出来合って、百の野郎が自慢面に、高山へ取残して置いた三百両ほどのお蘭どののお手許金を、三日の間に持って帰ってやると喜ばせておいて出かけたのですが、三日の期限はちょうどタイムの場合に漕ぎつけて戻って来たけれども、目的のお手許金は御持参がないというのだから、ヒヤかされるのも、撲られるのも是非ないところと言えば言うべきですが、しかし、これは説明を聞いていると、がんりきの腕のないということと、誠意の乏しいということの理由にはならないで、むしろ不可抗力であったと同情してやってもいいのです。