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だいぼさつとうげ

大菩薩峠

中里 介山

34 白雲の巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,838 字 · 204 页

青空文庫

にしては知れたものだが、丹念にして置いた写生帖だけは、自分としてかけ替えがないからな、そこで多少の心残りが房州にないことはない。うむ、よしよし、それもあの蛇籠作りの老爺が知っているだろう、今晩、たずねて来ると言ったが、急にそわそわした様子がおかしいけれど――まあ、今晩来たらつかまえて、委細を聞いてやる。

こんなことを考えながら、田山白雲は、中田、大の田より長町――ここはもう仙台の城下外れです――大町というのを苦もなくたずね当てて、そこで、とりあえずまずおとのうてみようと心がけた高橋玉蕉女史をたずねると、これも難なく――これは大きな商家で、女史は宮城野の別宅にいるとのことですから、改めてそこをたずねると、ちょうど在宅でもあり、また極めて歓迎もしてくれました。

女史の住宅は数寄をこらした家です。それよりも、白雲を驚かしたことは、玉蕉女史が本当の美人であることを見たからです。

美人に、ウソの美人と本当の美人があるかどうかは知らないが、世にいわゆる才色兼備の婦人などといっても、才の方はとにかく、色の方は大割増がしてあるのを通例とするのに、玉蕉女史に限って割引なしの美人でしたから、白雲がおもはゆく思いました。