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だいぼさつとうげ

大菩薩峠5

中里 介山

中里介山『大菩薩峠5』。同一底本的分册已合并为一书。收入:大菩薩峠、大菩薩峠、大菩薩峠。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 262,120 字 · 516 页

青空文庫

慢心和尚は、群がっている大坊主や小坊主を叱り飛ばして、

「クロか、クロか、さあ来い、来い」

と言って手招ぎました。

人に狎れることの少ないムク犬が、招かれた慢心和尚の面をじっと見つめながら、尾を振ってそこへキチンと跪まったのは、物の不思議です。

「狂犬であるか、狂犬でないか、眼つきを見ればすぐわかるじゃ、この犬を狂犬と見る貴様たちの方に、よっぽどヤマしいところがある」

慢心和尚は、こんな苦しい洒落を言いながら、いま食べてしまった黒塗のお椀を取って、傍にいた給仕の小坊主に、

「もう一杯」

と言ってお盆の上へそのお椀を載せました。小坊主が心得て、いま食べたと同じような、お粥のような糊のようなものをそのお椀に一杯よそって来ると、

「南無黒犬大明神」

と言って推しいただいて、恭しく座を立って、ムク犬の前へ自身に持って来ました。

そのお椀を目八分に捧げて、推しいただいて持って来る有様というものが馬鹿丁寧で、見ていられるものではありません。

「南無黒犬大明神様、何もございませんが、これを召上って暫時のお凌ぎをあそばされましょう」

縁のところへさしおいて、犬に向って三拝する有様というものは、正気の沙汰ではありません。