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てんさいけいまい
天才兄妹
野村 胡堂
「少女倶楽部」1928(昭和3)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,891 字 · 20 页
四
少くとも二十世紀のアメリカあたりで造る青黒色のインキではないか」
「何、何? そんな事があるもんか」
ヴァイオリンの胴の中を覗くと、成程香椎六郎の言う通り、名前を書いたインキには、ヴァイオリンの古びとは似もつかぬ新しさがあります。
「このヴァイオリンには、未だ外におかしな点がある。偽物とわかったら打ち壊してもいいだろうな」
打ち壊すと言われて、さすがに幾久雄はためらいましたが、思い定めて、
「宜しい、どうせ偽物とわかれば、惜しがるだけが馬鹿で、打ち壊しても、焚き付けにしても構わない」
「アレお兄様」
「信ちゃんは黙ってるがいい、そして、代りのヴァイオリンを大急ぎで取り寄せてくれ」
客席の方からは、霰がたばしるように、開演を促がす拍手の音、十五分休憩の筈のが、もう二十分位になりますが、幕はなかなか上る様子もありません。
四
「それ見ろ」
ヴァイオリンの胴を剥して、中を見ると、なめし革と膠で、胴裏に貼り付けたのは、夥しい宝石です。
一々胴裏から剥して、なめし革から出すと、五十カラット近い白色のダイヤが一つ、三十カラット程の、やや青色を帯びたのと、淡黄色を帯びたダイヤが一つずつ、五六カラットから、十カラット前後のが七つ、全部で十箇の見事なダイヤが、このヴァイオリンの胴の中に隠されてあるのでした。