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てんま

天馬

金 史良

「文芸春秋」1940(昭和15)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 35,407 字 · 70 页

青空文庫

彼のそう云う気持は分るけれど、それは芸術家には自殺を意味しますよ。坊主になるなんて。だがまあ宜しいと僕は思う所あって云ったのです。ボードレールも詩の言葉で、おー静謐よ静謐よと憬れました」

けれどそう結びつつ口元に笑いを浮べた彼の顔は、妙に痙攣を起したようにふるえた。

「一種の保護観察なんですのね、思想犯じゃないけど……」

「そうなんですよ」と彼は泣面をかきながらおろおろ声をしぼった。「僕は明後日までには坊主になってお寺へ行かねばならんのです」そこで彼はぶるっとふるえ上り膝を乗り出した。「ところがですね、実に素晴しいことには、東京の作家で僕の親友でもある田中君が京城へ来ているんです。是非会いたいということで先程朝鮮ホテルへ行ったけれど、とても遅かったので奴さんはしびれを切らして、大村君あたりと一緒に出掛けたらしいのです、あまり気の毒なんで僕はこれから捜しに行こうとするところです。何なら紹介して上げましょうか、朝鮮のジョルジュ・サンドとして又僕のリーベとして……」

「…………」詩人は目をつぶって嫣然と笑った。彼女はいよいよ若い大学生と待ち合わせていることをすっかり忘れてしまった。